アタッチメント理論と恋愛
距離の取り方を決める「愛着スタイル」の手がかり
- 大人の恋愛における距離の取り方の癖を、心理学の研究にもとづく「観察の地図」として読み解けます
- 不安と回避の2軸で、追う側と離れる側のループを関係の構造として観察する視点が身につきます
- いまのスタイルが変えられないものではなく、関係体験を通じて更新されうることがわかります
「相手が少し連絡をくれないだけで、見捨てられたような気持ちになる」「逆に、近づかれすぎると息苦しくなって、つい距離を取ってしまう」——そんなご自身の反応に、いつも同じパターンを感じることはありませんか。
それは、もしかすると「愛着スタイル」と呼ばれる、関係のなかでの距離の取り方の癖と関わっているかもしれません。本記事では、心理学のアタッチメント理論が大人の恋愛をどう照らし出すのかを、Bowlby・Ainsworthからはじまる古典の研究から、Hazan & Shaverによる成人愛着への拡張、Bartholomewの4分類モデルまで、関係をやわらかく観察するための地図としてまとめていきます。
アタッチメント理論とは何か——子ども時代の研究から始まる物語
寝る前、なんとなくスマホを触りながら、返信の遅い相手を待っている自分に気づく夜があります。悪気があるわけでもなく、疲れているだけなのかもしれない。それでも、胸の奥がざわつく感覚だけは、なぜか消えなかったりします。
この「なぜか消えない感覚」を、心のなかで少しだけ観察する言葉として、心理学は「アタッチメント」という枠組みを育ててきました。
アタッチメント理論は、もともと子どもと養育者のあいだに結ばれる絆を理解するために生まれた心理学の枠組みです。提唱したのは、英国の精神科医・心理学者であるジョン・ボウルビィ(John Bowlby)でした。
ボウルビィは、第二次大戦後の児童研究のなかで、子どもが養育者と離されたときに見せる反応——抗議、絶望、無関心の三段階——を観察し、子どもには特定の他者との情緒的なつながりを求める生得的な傾向があると論じました[1]。この、特定の他者に近接を求める情緒的なシステムを、ボウルビィは「アタッチメント(attachment)」と呼びました。
ここで大事なのは、アタッチメントが単なる「甘え」や「依存」とは違うかたちで捉えられているということです。ボウルビィにとってアタッチメントは、危険を感じたときに安心を取り戻すための仕組みであり、人がやがて世界を探索していくための土台でもあります。子どもは、安心できる養育者という「安全基地(secure base)」があるからこそ、好奇心を持って外の世界に歩き出していけると考えられました。
Strange Situation——観察から見えてきた3つのパターン
ボウルビィの理論を実証的な研究へと展開させたのが、メアリー・エインズワース(Mary D. S. Ainsworth)でした。エインズワースは、1歳前後の子どもと養育者を実験室に招き、養育者の短時間の不在と再会という、いくつかの場面を組み合わせた観察手続き——Strange Situation(ストレンジ・シチュエーション)——を考案します[2]。
そのなかで観察された子どもの反応は、大きく3つのパターンに整理されました。
- 安定型(secure)——養育者の不在には不安を見せるが、再会で素直に慰めを求め、落ち着くと再び遊びに戻れる
- 回避型(avoidant)——不在にも再会にも、表面的にはあまり反応を見せず、養育者から距離を取る
- 抵抗・両価型(resistant / ambivalent)——強い不安を見せ、再会後も慰めを受け入れにくく、怒りと甘えのあいだを揺れ動く
このパターンは、子どもの「性格」というよりも、養育者の応答性の積み重ねを通じて子どもが学習した、安心を取り戻すための戦略として捉えられました。安心が得られやすい応答が積み重なれば安定型に近づき、応答が予測しにくい環境では別の戦略が育まれていく——という見方です。
恋愛への拡張——Hazan と Shaverの発見
付き合いはじめの頃、相手の一言で一日中うれしくなったり、返信が来ないだけで胸が苦しくなったりしたこと、ありませんか。大人になっているはずなのに、あの感覚は、どこか子どもの頃の心もとなさと似ていたかもしれません。
子ども時代に育まれたアタッチメントのパターンは、大人になったらどこかへ消えてしまうのでしょうか。それとも、形を変えて大人の関係のなかにも持ち越されていくのでしょうか。
この問いに新しい光を当てたのが、シンディ・ハザン(Cindy Hazan)とフィリップ・シェイヴァー(Phillip R. Shaver)による1987年の研究でした[3]。ふたりは、大人の恋愛もまた、ひとつのアタッチメント・プロセスとして理解できるのではないかと提案します。
恋愛している大人の関係には、たしかに子どものアタッチメントと重なる特徴が並びます。相手の近くにいたいと願う気持ち、別れの場面で覚える不安、再会のときの安堵、相手を「自分の世界の土台」として位置づける感覚——これらはすべて、ボウルビィが描いたアタッチメントの輪郭と重なっていきます。
ハザンとシェイヴァーは、エインズワースの3類型を大人の自己記述にうつしかえる質問項目を作り、恋愛関係のなかで人々が報告するパターンを観察しました。その結果、大人の自己申告のなかにも、子ども時代と似た「安定」「回避」「不安・両価」の三つの傾向が浮かび上がってきました。これが、今日「成人愛着スタイル」と呼ばれる研究の出発点になります。
大事なのは、ここで言う「スタイル」が、性格類型のような固定的なラベルではないことです。それは、関係のなかで安心を取り戻そうとするときに、その人が学習してきた反応の傾向として捉えられています。
成人の愛着スタイル4分類——Bartholomewのモデル
「自分は不安型かも」「相手は回避型かも」——雑誌やSNSで、そんな言葉を目にしたことがある方も多いかもしれません。悪気なくラベルを貼ってしまいそうになる、その手前で、もう少し丁寧な地図があります。
ハザンとシェイヴァーが示した3類型を、より緻密に整理し直したのが、キム・バーソロミュー(Kim Bartholomew)とレナード・ホロウィッツ(Leonard M. Horowitz)による4分類モデルでした[4]。彼らは、人がどう関係を組み立てるかを、ふたつの軸——自分への見方(ポジティブ/ネガティブ)と他者への見方(ポジティブ/ネガティブ)——で読み解こうとしました。
この2軸を組み合わせると、4つの愛着スタイルが浮かび上がります。
安定型(Secure)
自分への見方も、他者への見方も、おおむねポジティブな層です。「自分は愛される価値がある」「他者はおおむね応えてくれる」という前提のうえで、関係に近づくことも、適度に離れることも、過剰な不安なくおこなえます。倦怠期のような関係の停滞期にも、対話のテーブルを保ちやすい層です。
とらわれ型(Preoccupied/不安型)
自分への見方は控えめで、他者への見方は強くポジティブな層です。「自分はもっと愛されたい」「相手の応えしだいで自分の価値が決まる」という前提のもとで、関係のなかで近接を強く求める方向に傾きやすくなります。連絡の返信が遅れることや、ささいなトーンの変化に、強い不安を感じやすい層でもあります。
拒絶回避型(Dismissing-avoidant)
自分への見方はポジティブで、他者への見方は控えめな層です。「自分はひとりで大丈夫」「他者には深く期待しないほうが安全」という前提のもとで、関係のなかで距離を取る方向に傾きやすくなります。感情を内側にしまい、近づきすぎる関係を息苦しく感じやすい層です。
恐れ回避型(Fearful-avoidant)
自分への見方も、他者への見方も、控えめな層です。「近づきたいけれど、傷つくのが怖い」という、近接と距離のあいだで揺れ動く感覚を抱えやすい層で、関係の深まりに対して両価的な反応が出やすいとされます。
不安と回避——2軸での読み解き
後年の成人愛着研究では、これらのカテゴリを「不安(anxiety)」と「回避(avoidance)」という2つの連続的な軸として測定する方向に整理されてきました。「不安」は、見捨てられることや相手の応えへの過敏さを、「回避」は、近接や情緒的な開示への抵抗感を、それぞれ表します。
つまり、人は4つの箱のどれかに入っているというより、不安と回避の2軸のうえで、どのあたりに位置しているかとして読み解かれるようになってきました。倦怠期のなかでの距離感の捉え方を観察するときも、この2軸の地図は使いやすいものです。
ご自身の関係が、いまどんな温度感にあるかを
20問のセルフチェックで見つめ直してみませんか?
内的作業モデル——スタイルを支える「心のなかの設計図」
「なんでいつも同じところで反応してしまうんだろう」——後から振り返って、そう思ったことはないでしょうか。頭では冷静でいたいのに、体のほうが先に動いてしまう、あの感覚です。
愛着スタイルが、ふだんの場面の反応として現れる背景には、ボウルビィが「内的作業モデル(internal working model)」と名づけた仕組みがあると考えられています[1]。
内的作業モデルとは、ご自身のなかに静かに蓄積されてきた、「自分は他者からどう扱われやすい存在か」「他者はどんなふうに応えてくれる存在か」という、2種類の見取り図のことです。子ども時代の養育者とのやり取りを通じて、その輪郭が少しずつ描かれていき、大人になってからの関係にも、無意識のうちに参照されつづけていきます。
たとえば、「困ったときに『どうしたの?』と応えてもらえた経験」が積み重なってきた方は、「他者は困ったときに応えてくれる存在だ」という見取り図を内側に持ちやすくなります。一方で、応えがあるかないかが予測しにくい環境で育った方は、「他者の応えは確かではない」という見取り図と、「自分はもっと求めなければ届かない」あるいは「最初から求めないほうが安全だ」という前提を、内側に持ちやすくなります。
恋愛関係の場面で、ふと出てしまう反応や、頭で考える前に動く感情の方向は、この内的作業モデルが下で動いている結果として捉えることができます。だからこそ、表面の言動だけを直そうとしてもうまくいかないことが多く、下で動いている見取り図に気づくことが、長い時間軸での変化の起点になっていきます。
そして大切なのは、内的作業モデルは「書き換え不可能な記憶」ではなく、新しい関係体験のなかで少しずつ更新されていく地図として理解されていることです。新しい応答性のあるやり取りが積み重なっていけば、内側の見取り図にも、新しい線が描き加えられていきます。
恋愛のなかでの現れ方——日常のひと場面に潜むパターン
スーパーの帰り道、既読はついたのに返信がない——それだけのことで、頭のなかで小さな物語が回りだす、そんな瞬間があったりします。相手はただレジ袋を提げているだけ、なのかもしれないのに。
愛着スタイルは、特別な場面ではなく、ふたりの日常のなかの小さなやり取りに静かに現れます。ここでは、4つのスタイルが恋愛関係のなかでどう立ち現れやすいかを、いくつかの場面のかたちで描いてみます。
連絡の返信が少し遅れたとき
安定型に近い層は、「忙しいのだろう」と思って、すぐに別のことに意識を向けやすくなります。とらわれ型に近い層は、「何かしてしまったのかな」「冷められたのかも」と、心のなかで物語が広がりやすくなります。拒絶回避型に近い層は、自分から連絡を入れることをかえって控え、「相手に合わせて自分も距離を取る」かたちを取りやすくなります。恐れ回避型に近い層は、「連絡したいけれど、しつこいと思われるのが怖い」と、ふたつの方向のあいだで身動きが取れにくくなることがあります。
関係が安定して、慣れが出てきたとき
付き合いはじめの熱の高さが落ち着いてくると、その変化への受け止め方にも、スタイルの色が出やすくなります。安定型に近い層は、「熱が落ち着いた次の景色」を受け止めやすく、関係を別の温度で続けようとします。とらわれ型に近い層は、「冷められたのではないか」「もう愛されていないのでは」と、変化を喪失として受け取りやすくなります。拒絶回避型に近い層は、慣れが出てきたあたりで「自分のスペースを取り戻したい」気持ちが顔を出し、距離を広げる動きが出やすくなります。
意見が食い違って、対話の温度が上がったとき
安定型に近い層は、感情を抱えながらも対話を続けることをおおむね保てます。とらわれ型に近い層は、「相手の気持ちを失うのではないか」という不安が前に出て、過剰に謝ったり、逆に強く責めたりという、両方向の反応が出やすくなります。拒絶回避型に近い層は、感情の高まりそのものから退却し、沈黙や別室への移動という距離化の反応に出やすくなります。恐れ回避型に近い層は、対話の温度に圧倒されて、近づくことも離れることもしんどく感じやすくなります。
これらは、あくまで観察の手がかりであって、ご自身や相手を診断したり、ラベルを貼ったりするための道具ではありません。むしろ、「自分はこういう場面で、こういう反応が出やすい」という自分への気づきのために使われると、いちばん力を発揮します。
倦怠期と愛着スタイル——「距離」の意味が変わるとき
付き合いはじめの頃は気にならなかった相手の口ぐせが、いつからか少しずつ気になりだす——そんな感覚を、ふと覚えることはないでしょうか。相手が変わったわけでもなく、こちらが冷めたわけでもない。ただ、熱の高さで見えなくなっていたものが、静けさのなかで少しずつ輪郭を持ちはじめている、のかもしれません。
関係が長くなり、倦怠期と呼ばれる時期に入ると、お互いの愛着スタイルの色が、それまでよりはっきりと表面に出やすくなります。熱の高さで覆い隠せていたパターンが、温度が落ち着いたところで姿を現すからです。
とくに、関係のなかで観察しやすい組み合わせのひとつが、とらわれ型と拒絶回避型の組み合わせです。一方は「もっと近くにいたい」「もっと気持ちを話してほしい」と感じ、もう一方は「もう少しスペースが欲しい」「気持ちを言葉にするのは苦手だ」と感じる——ふたりが、相手の動きに反応するかたちで、追う側と離れる側に分かれていきやすい構図です。
この構図のなかでは、双方が「正しいこと」をしているつもりでも、関係としては不安と回避のループが回り続けることがあります。追う側はもっと安心を求めて近づき、離れる側はもっと自由を求めて距離を取る——。それぞれの動きが、相手のスタイルにとっての不安要因として作用し、ループが強化されていきます。
倦怠期において大事なのは、相手を「冷たい」「重い」と単純に裁くより、このループが生まれている構造のほうに目を向けてみることです。スタイルの違いは、どちらかが悪いという話ではなく、ふたりがそれぞれ違うかたちで安心を取り戻そうとしているという話だからです。会話の質を整え直す視点については、夫婦の会話を見つめ直す別の記事もあわせてご覧いただけます。
愛着スタイルは変えられるのか——「学習された安定」という考え方
自己診断のようなチェックをやってみて、思ったより不安寄りの結果が出た——そんなとき、少し胸が沈んだような気持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。「じゃあ、もう変えられないのかな」と。
愛着スタイルの研究を学ぶときに、多くの方が抱く問いがあります。「子ども時代に育まれたパターンは、もう変えられないのか」という問いです。
成人愛着研究の蓄積を整理した教科書では、愛着スタイルは生涯のあいだ完全に固定されているわけではなく、その後の関係体験を通じて変化しうることが、繰り返し述べられています[5]。とくに、安心できる応答性の高いパートナーシップやセラピーといった、新しい安全基地の体験が積み重なることで、不安や回避が和らいでいく方向への変化が観察されてきました。
こうした、後年の関係体験を通じて獲得される安定性は、研究のなかで「学習された安定(earned secure)」と呼ばれることがあります。それは「生まれつき安定型だった人」とは少し違う、不安や回避を通り抜けた先で身につけられる安定です。日常の言葉にすれば、ご自身のなかにある反応の癖に気づきながら、それでも対話のテーブルにとどまり続ける——そのささやかな繰り返しが、長い時間をかけて、安心の地図を書き換えていくということでもあります。
つまり、いまのご自身のスタイルが「不安寄り」だったり「回避寄り」だったりするとしても、それは関係を諦めるための診断ではなく、これから関係のなかで育てていくものの起点として受け取ることができます。
パートナーシップを「安全基地」にする——日常のなかの小さな実践
けんかのあと、なんとなく気まずいまま眠りにつく夜があります。翌朝、いつもどおりに「おはよう」を交わせたことに、ほっとする——そんな小さな安心の連続が、実はふたりの土台を作っていたりします。
愛着スタイルの研究の流れは、心理療法の領域にも応用されています。代表的なものに、スー・ジョンソン(Susan M. Johnson)が体系化した「感情焦点化療法(Emotionally Focused Therapy/EFT)」があり、夫婦・カップル療法の現場で広く活用されてきました[6]。EFTは、関係のなかの対立を「どちらが正しいか」のレベルで扱うのではなく、その下に流れている、見捨てられたくない/圧迫されたくないといった、愛着にまつわる感情のレベルで扱おうとする療法です。
EFTの考え方を日常の言葉にやわらげると、パートナーシップをお互いの安全基地として育てていくという発想に行き着きます。安全基地とは、揺れたときに戻ってこられる場所、息を整え直せる関係のことです。
倦怠期のなかでも、安全基地としての関係を育てる小さな実践は、ひとつずつ積み重ねていけます。
- 相手が感情を口にしたとき、反論や解決より先に「受け取る」ことを置いてみる
- 「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じている」という、自分の感情から始める語り出しを試してみる
- 距離を取りたい側も、「いま少し離れたい、でも見捨てたわけではない」と距離の意味を言葉にする
- 近づきたい側も、「いま不安を感じている、責めているわけではない」と不安の意味を言葉にする
これらは、特別な技法というより、関係のなかの意味のすれ違いをほぐすための小さな確認です。安全基地は、一度作って完成するものではなく、毎日の小さなやり取りのなかで、少しずつ補強されていくものでもあります。
観察の地図として使う——判定よりも理解のために
ネットで「うちの夫は回避型だ」と検索してしまった夜、少しだけ胸がすいた気がして、でもどこか、後味の悪さも残ったりします。ラベルは、いっとき納得を運んでくれるけれど、関係そのものをやわらかくしてくれるとは限らないんですよね。
愛着スタイルの知識は、ご自身や相手を「不安型だから/回避型だから」と裁くために使われるとき、関係を硬くしてしまうことがあります。けれど、同じ知識が、「自分にはこういう反応が出やすい」「相手はこういうかたちで安心を取り戻そうとしている」という観察の地図として使われるとき、ふたりのあいだに新しい余白を作る助けになります。
大事なのは、スタイルの違いは「合わなさ」を意味しているわけではないということです。安定型同士でも倦怠期は訪れますし、不安型と回避型の組み合わせでも、お互いを安全基地として育て直していく関係はたくさんあります。スタイルは関係の運命を決めるのではなく、関係のなかで観察するための地図のひとつとして、もっとも力を発揮します。
そして、地図はあくまで地図であって、現地ではありません。地図の上で「不安型」と「回避型」のラベルが対面していても、現実のふたりは、地図には書かれていない無数のニュアンスのなかで日々を交わしています。スタイルの理解は、その日々をより丁寧に観察するための小さな手がかりとして、関係に持ち込んでいただけます。
ふたりの関係に取り入れるなら
本を閉じたあと、なにか特別なことをしないといけない気がして、かえって身動きが取れなくなる——そういうこと、あったりします。地図は、大きなアクションのためではなく、明日の朝ごはんの前の一呼吸のために、そっと開くくらいでちょうどよいのかもしれません。
愛着の地図を日常に持ち込むときに、まずおすすめしたいのは、相手に矢印を向ける前に、ご自身の反応を観察してみることです。連絡が返ってこないとき、相手が黙ったとき、距離が広がったように感じたとき——そのときご自身のなかで動いている感情の色を、一度ゆっくり言葉にしてみる。
そのうえで、関係のループのなかにいるご自身を、責めずに観察します。「いま、不安が強く出ているな」「いま、距離を取りたい気持ちが強いな」と、感情に名前を与えていくだけで、自動的に出ていた反応のスピードが少しゆるみます。スピードがゆるんだ分だけ、違うふるまいを選ぶ余地が、関係のなかに生まれてきます。
関係の質を、ふたりのあいだで対話的に整えていく視点については、ゴットマンの「4つの毒」の記事や、倦怠期からの再構築もあわせてご覧いただけます。アタッチメントの地図と、これらの実践的なフレームを重ねていただくと、関係の輪郭がもう少しはっきり見えてくるかもしれません。
もし、不安や回避の反応が長く続き、ご自身の心がすでに疲弊しているように感じる場合や、関係のなかでの安全感が大きく揺らいでいるように感じる場合は、信頼できる場所(公的な相談窓口・心理カウンセラー・夫婦療法の専門家など)に話を聴いてもらうことも、ひとつの選択肢として大切にしてください。第三者の応答性のある眼差しが、ご自身のなかの安全基地を育て直すきっかけになることもあります。
本サイトの20問のセルフチェックは、愛着スタイルそのものを判定するためのものではなく、いまの関係の温度感を4つのタイプの輪郭で描くためのものです。愛着の地図と、関係の温度の地図——ふたつの地図を重ねて、ご自身とふたりの関係を、いつもより少しだけやわらかく観察していただけたらと思います。
関係のなかでの距離の取り方は、ふたりの歴史と、それぞれの内側に静かに積み重なってきたものの結果として、いまそのかたちを取っています。それは決して、変えられない運命でもなければ、誰かを責めるための材料でもありません。ご自身のなかにあるパターンに、いつもより少しやわらかく目を向けてみる——その小さな時間が、これからの関係に、思いがけない余白を生んでくれることもあります。
参考文献・出典
- Bowlby, J. (1969/1982). Attachment and Loss, Vol. 1: Attachment (2nd ed.). New York: Basic Books. ↩1 ↩2
- Ainsworth, M. D. S., Blehar, M. C., Waters, E., & Wall, S. (1978). Patterns of Attachment: A Psychological Study of the Strange Situation. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum. ↩
- Hazan, C., & Shaver, P. R. (1987). Romantic Love Conceptualized as an Attachment Process. Journal of Personality and Social Psychology, 52(3), 511-524. PubMed ↩
- Bartholomew, K., & Horowitz, L. M. (1991). Attachment styles among young adults: A test of a four-category model. Journal of Personality and Social Psychology, 61(2), 226-244. PubMed ↩
- Mikulincer, M., & Shaver, P. R. (2007). Attachment in Adulthood: Structure, Dynamics, and Change. New York: Guilford Press. ↩
- Johnson, S. M. (2008). Hold Me Tight: Seven Conversations for a Lifetime of Love. New York: Little, Brown and Company. ↩