倦怠期からの立ち直り方
揺らいだ関係を少しずつ再生する5つの手がかり
- 「乗り越え方=維持」と「立ち直り方=再生」を別軸として区別し、揺らいだあとの関係をやわらかく再生する視点がわかります
- ご自身の傷の観察・期待値の仕切り直し・小さな会話の再開・修復の対話・専門家の眼差しという5つの手がかりを集約しています
- 揺らぎは関係の失敗ではなく長く続く関係に自然と起きる現象として捉え直し、責めずに観察する段階的な観察軸が身につきます
大きな言い合いのあと、翌朝の食卓の空気がまだ少し重い。会話は普通にできるのに、胸の奥のほうにちいさな引っかかりが残っている——そんな朝、覚えがありますか。
「終わったこと」にするには早すぎるし、「まだ続いていること」として抱えるにも重い。そういう宙ぶらりんの時期を、この記事ではrecovery(再生)のプロセスとしてご紹介していきます。
「乗り越え方」が継続中の関係を維持する視点だとすれば、「立ち直り方」は一度揺らいだ関係をやわらかく再生する視点。倦怠期診断の文脈で、少しずつ取り入れていただける手がかりとしてお伝えしていきますね。
「乗り越える」と「立ち直る」——維持と再生
友だちと話していて、「うちは大丈夫、まだ立ち直り中だから」と口に出したとき、その言葉の重みに自分でも少しびっくりする瞬間があります。大丈夫じゃないけど、大丈夫。そんな微妙な状態を、この言葉はそっと抱えてくれたりします。
「立ち直る」という言葉には、「一度何かが揺らいだあと、もう一度やわらかい状態に戻っていく」というニュアンスが含まれています。倦怠期を通り抜けるなかで、関係のなかに小さな揺らぎ(言い合い・距離の広がり・諦めの感覚等)が生じることは、決して珍しいことではありません。揺らぎは関係の失敗ではなく、長く一緒にいる関係に自然と起きる現象でもあるんですね[1]。
これからご紹介する5つの手がかりは、その揺らぎのあとに、関係をふたたびやわらかい状態に戻していくための観察軸です。一度に全てを試す必要はなく、ご自身のペースで取り入れていただける順番でお伝えします。
手がかり① ご自身のなかの傷を観察する——責めずに気づく
電車のなかで窓の外を見ながら、「あの日の言葉、まだ胸に残ってるな」とふと気づく瞬間があります。相手を責めたいわけでも、自分を責めたいわけでもない。ただ、まだ動かない何かが胸のあたりにあるだけ。
立ち直りのもっとも最初の手がかりは、ご自身のなかにある小さな傷や疲れを、責めずに観察することです。倦怠期のなかで揺らいだ関係のあとには、しばしば「自分が悪かった」「相手が悪かった」という単線的な内省が立ち上がります。けれど、その内省は、しばしば立ち直りのスピードを遅らせる方向に働きます。
まず必要なのは、「責めずに気づく」ことです。「あの会話のあとから、まだ少しもやもやが残っている」「最近、なんとなく疲れている」「相手の言葉が、いつもより刺さりやすくなっている」——そういった、ご自身のなかの小さな状態を、判断せずに観察する作業が、立ち直りの最初の入口になります。
手がかり② 相手への期待値を仕切り直す——いったん白紙に戻す
「前はもっと優しかったのに」と胸のなかでつぶやいたあと、少しの罪悪感が残る夜があります。相手も同じくらい変化していて、悪気があって変わったわけじゃないのはわかっている。でも、心の比較だけは静かに続いてしまうんですよね。
2つ目の手がかりは、相手への期待値を、いったん「白紙に戻して仕切り直す」視点です。揺らぎが生じた関係のなかでは、「相手はこうあってほしかった」「以前のような対応がほしかった」という、過去の期待値が、いまの関係への眼差しを曇らせていることがあります。
これは「諦め」ではなく、「いまの相手を、いまの相手として観察し直す」作業です。仕切り直しのあとに、相手のなかに新しく気づける部分が出てくるかもしれません。期待を完全に手放す必要はなく、過去の期待を、現在の現実とのあいだで一度しなやかに伸び縮みさせるようなイメージです。
手がかり③ 小さな会話を再開する——「報告と確認」以外の言葉
朝、キッチンで「今日燃えるゴミの日だっけ」「うん」——それだけで一日の会話が終わってしまう。仕事に行き、帰ってきて、また同じ短い応答が繰り返される。話すことがないわけじゃなくて、話すきっかけが見つからないだけだったりします。
3つ目の手がかりは、ふたりのあいだの「報告と確認」以外の小さな会話を、意識的に再開することです。揺らぎが生じた関係のなかでは、会話が「子どもの予定」「家事の分担」「仕事の連絡」といった機能的な情報交換に偏る傾向があります。これは関係の問題ではなく、揺らぎから自分を守るための自然な反応でもあります。
立ち直りの段階では、その機能的な会話に、「ささやかな観察の言葉」を少しずつ混ぜていくことが有効です。「今日の空、きれいだったね」「最近、本棚に新しい本が増えたね」「コーヒー、いつもの淹れ方じゃないね」——という、ふたりの暮らしのなかの小さな観察を言葉にする習慣が、関係の温度感をやわらかく揺り起こしていきます。
手がかり④ 修復の対話を試みる——Gottmanの「repair attempts」
言い合いのあと、正解の言葉が見つからないまま、何日か気まずさを引きずってしまう——そんな時期、覚えがありますか。うまく謝れるほど整理できていない、けれど、このままにしたくもない。そのあいだで揺れる自分がいます。
4つ目の手がかりは、揺らぎを生んだ会話があったとき、「修復の試み(repair attempts)」を意識的に行うことです。米国の心理学者ジョン・ゴットマン(John M. Gottman)が1999年に米国Crown Publishersから刊行した『The Seven Principles for Making Marriage Work』では、長期的に安定する関係に共通する要素のひとつとして、「言い合いのあとに修復しようとする小さな試み」が繰り返し挙げられています[2]。
修復の試みは、大げさな謝罪ではなく、「さっきは言いすぎたかも」「お互い疲れてたよね」「もう一度、別の言い方で話してみる?」といった、小さな声かけの形で十分です。重要なのは、修復の言葉が「完璧な解決」を目指す必要はないということです。「修復しようとした」という事実そのものが、関係のなかにやわらかさを取り戻していきます。
ご自身とふたりの関係の温度感を
20問のセルフチェックで見つめ直してみませんか?
手がかり⑤ 専門家の眼差しを借りる——第三者の応答性
友だちに相談したくても、こういう話は誰にでもできる話じゃない。かといって、自分たちだけで考えていると、同じ場所をぐるぐる回ってしまう。そういう夜、スマホを手に取って画面を見つめて、また置く——そんな時間があったりします。
5つ目の手がかりは、自分たちだけで立ち直りが難しさを感じる時、専門家(夫婦カウンセラー・心理援助の専門家)の眼差しを借りる選択肢を持っておくことです。カナダの心理学者スーザン・ジョンソン(Susan M. Johnson)が2008年に刊行した『Hold Me Tight』で体系化された感情焦点化夫婦療法(EFT)は、揺らぎが生じた関係の修復を扱うことを得意とするアプローチのひとつです[3]。
専門家相談は「関係が破綻したとき」の選択肢ではなく、「立ち直りのプロセスを、第三者の応答性のある眼差しのなかで進める」観察の地図として捉え直すことができます。具体的なアクセス方法や選び方については、当サイトの夫婦カウンセリングのコラムで詳しくご紹介しています。
倦怠期診断の文脈で読み直す5つの手がかり
本サイトの倦怠期診断は、関係の温度感を4つのタイプの輪郭で描くツールです。5つの手がかりは、4タイプいずれの文脈でも、立ち直りの起点として活用できます。
たとえば、再燃可能型(タイプB)の温度感では、まだ関係への関心が双方に残っていることから、手がかり③(小さな会話の再開)+手がかり④(修復の対話)が、おふたりで意識的に試しやすい入り口になることがあります。冷却型(タイプA)や並走型(タイプC)では、まず手がかり①(ご自身の傷の観察)や手がかり②(期待値の仕切り直し)から、内面的に始められる作業に取り組んでみる選択肢があります。倦怠期からの長期的な再構築については、倦怠期からの再構築|7階建てで土台から組み立て直すもあわせてご参考にしていただけます。
倦怠期の全体像を俯瞰されたい場合は、当サイトの倦怠期のすべて|心理学から読む7視点の総合ガイドもあわせてご参考にしていただけます。原因・サイン・兆候・対処法・乗り越え方・立ち直り方を一望できる入口として、ご活用いただけます。
ふたりの関係に取り入れるなら
5つの手がかりを、ご自身の関係に取り入れるとき、まずおすすめしたいのは、「立ち直りには時間がかかる」という前提を持つことです。揺らぎが一夜にして起きたものではないように、立ち直りも一日では起こりません。5つの手がかりは、それぞれ独立した目標ではなく、ゆっくりした流れのなかの観察軸として、お使いいただけたらと思います。
本サイトの20問のセルフチェックは、その「観察の地図」のひとつとして、関係の温度感をやわらかく描き出すツールです。立ち直りの地図と、関係の温度の地図——ふたつの地図を重ねながら、ご自身とふたりの関係を、いつもより少しやわらかく見つめ直していただけたらと思います。
参考文献・出典
- Karney, B. R., & Bradbury, T. N. (1995). The longitudinal course of marital quality and stability: A review of theory, method, and research. Psychological Bulletin, 118(1), 3-34. PubMed ↩
- Gottman, J. M. & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. New York: Crown Publishers. ↩
- Johnson, S. M. (2008). Hold Me Tight: Seven Conversations for a Lifetime of Love. New York: Little, Brown and Company. ↩