倦怠期の対処法
いま起きていることをやわらげる6つの短期実践を心理学から整理する
- 長期的な乗り越え方とは別軸の、「いま起きていることをやわらげる」ための短期実践6つがわかります
- 気づきの頻度・期待の方向・小さな新規性・会話の見直し・共有時間の質・専門家相談という、今日から取り入れられる観察軸が身につきます
- 心理学研究に基づく具体的な小さな実践のヒントと、関係を立体的に読むための補足観点5つを集約しています
台所の食器を洗いながら、ふと「最近どうしよう、この感じ」と胸のなかで小さくつぶやいた夜——そんな瞬間、ありませんか。
大きな喧嘩をしたわけでもなく、決定的な出来事があったわけでもない。ただ、なんとなく温度が下がっているような気がする。そんなとき、「長期的にどう関係を建て直すか」より先に、まず「いま起きていることを、少しだけやわらげる」ほうが、心にすっと入ってきたりします。
この記事では、心理学の研究から6つの短期実践を、日々の暮らしに重ねてご紹介していきますね。
「対処法」とは何か——短い時間軸で、いまをやわらげる
朝、コーヒーを淹れながら「今日は何時に帰る?」と聞き、「わかった」で会話が終わる——そんな日常の温度感を、いきなり「10年後どうするか」で考えようとすると、心のほうがついていかなかったりします。
悪気があるわけじゃない、ただ疲れているだけかも。そう思いつつも、胸のあたりにはうっすらとした重さが残る。
「対処法」という言葉には、「いま目の前で起きている状態に、どう向き合うか」という、比較的短い時間軸のニュアンスがあります。長期的な関係の建て直し(「乗り越え方」)とも、根本的に状態を変える試み(「解消」)とも、少し違う視点なんですね。
関係の温度が下がっていると感じるとき、すぐに「長期的にどうするか」を決める必要はありません。まず「いま起きていることを観察し、やわらかく対応する」段階から始めるのが、現実に近い順番かもしれません。これからご紹介する6つは、その「いまの対応」のための手がかりです。
対処法① 「気づき」の頻度を上げる——観察の解像度を取り戻す
玄関で「いってらっしゃい」と背中を見送りながら、相手が今日どんな靴下を履いていたか、思い出せない。ネクタイの柄も、朝食のときの表情も、全部ぼんやりしている——そんな朝、覚えがあるでしょうか。
忙しいだけ、疲れているだけ。そういう日もある、と自分に言い聞かせながら、それでも「あれ、私、最近ちゃんと相手のこと見てたっけ」と、ふと立ち止まる瞬間があります。
倦怠期と感じる温度感の背景には、しばしば「気づきの解像度の低下」があるんですね。相手の小さな変化、自分のなかの小さな感情、ふたりのささやかな出来事——それらへの「気づき」の量が減ると、関係の温度感は実際以上に低く感じられます。
もっとも基本的な対処法は、その気づきの頻度を意識的に上げること。1日の終わりに「今日、相手のどんな小さなことに気づいたか」を、内側でひとつだけ言葉にしてみる。声に出して伝えなくても、ご自身のなかで気づきを更新するだけで、温度感の見え方は少しずつ変わってきたりします[1]。
責めるのではなく、ただ観察する。今日は靴下の色に気づけた、それだけでいい夜もあります。
対処法② 「期待」の方向を見直す——前向きに手放す
誕生日の朝、相手が「おめでとう」だけ言ってリビングを出ていく。以前だったら、ちいさな花束くらい用意してくれていたのに——そんな、比べてしまう自分に気づいた瞬間、ありませんか。
期待していた分だけ、少し寂しかっただけ。相手も忙しいのは知っている。悪気があるわけじゃないんですよね。でも、心のなかの引き算だけは、勝手に進んでしまうことがあります。
倦怠期のなかで生じやすい感覚のひとつが、この「以前のような対応がほしいのに、もらえない」という期待値ギャップです。期待自体は自然なものですが、期待の方向と現実のずれが大きくなりすぎると、関係への眼差しが「足りないもの探し」に偏っていく傾向があるんですね。
対処として有効なのは、相手に求めることを増やすのではなく、「相手のいまできていることを観察し直す」こと。「おめでとう」を言ってくれたこと、朝ちゃんと顔を見てくれたこと。小さいけれど、そこにあるものです。
これは「諦め」ではなく、期待の角度を少しずらして、相手の現在地を見直す作業。期待を完全に手放す必要はなくて、その向き方をやわらかくするだけで、観察できるものの量が変わってきます。
対処法③ 小さな新規性を取り入れる——慣れの自然さを緩める
週末の午後、ソファに並んで座ってスマホを見ている。テレビはついているけど、誰も本当は見ていない——そんな時間が、いつのまにか「うちの休日」になっていたりします。
これはこれで安心だし、そういう日もある。でも、少しだけ空気を入れ替えたい気持ちが、胸の奥にちらついたりもするんですよね。
3つ目の対処法は、ふたりの日常に「小さな新規性」を意識的に取り入れること。米国の社会心理学者アーサー・アロン(Arthur Aron)らが2000年に『Journal of Personality and Social Psychology』で発表した研究では、夫婦やカップルが新規性のある活動を共有すると関係満足度が向上することが実証的に示されています[2]。
大事なのは、新規性=「大きなイベント」ではないということ。アロンらの実験で示されたのは、「ふたりにとって普段やらないこと」を7分間共有するだけで関係満足度が上がる、というシンプルな結果です。
いつもと違う散歩道、まだ行ったことのないお店、二人とも初めての料理を作ってみる、観たことのないジャンルの映画——そんな、ちいさな新しさを一週間にひとつ挟んでみる。それだけで、温度感は少しずつやわらいでいったりします。
対処法④ コミュニケーションの「毒」を観察する
「なんで洗い物、いつも私ばっかりなの?」——言い終わってから、あ、ちょっと言い方きつかったかも、と自分でも気づく夜。相手は「ごめん」とも「言い訳」ともつかない返事をして、そのまま風呂に向かう。空気がわずかに冷える。
疲れていたから、そういう日もあります。悪気があって言ったわけじゃない。でも、こういう小さなやりとりが積み重なると、静かに何かが目減りしていく感覚があるんですよね。
米国の心理学者ジョン・ゴットマン(John M. Gottman)が1999年に米国Crown Publishersから刊行した『The Seven Principles for Making Marriage Work』では、長期的に関係を蝕む4つの要素として、「批判」「侮辱」「防衛」「無視」が挙げられています[3]。
対処として大事なのは、これらの「毒」を相手のなかに探すのではなく、自分のなかに気づく視点。「最近、つい皮肉まじりに言ってしまったな」「無意識に防衛的な返答をしてしまったな」——という気づきが、その毒をちいさくしていく入り口になります。
完全になくす必要はなくて、気づいた瞬間に少しだけ言い直す。「ごめん、言い方きつかったね」の一言だけで、会話の温度感は変わってきたりします。
ご自身とふたりの関係の温度感を
20問のセルフチェックで見つめ直してみませんか?
対処法⑤ 共有された時間の「質」を見直す
同じ食卓で夕飯を食べている。同じソファでテレビを見ている。同じベッドで寝ている。「一緒にいる時間」は、たぶん、ちゃんとある。それなのに、なぜか「ふたりでいる感じ」が薄い夜が続く——そんな感覚、あるでしょうか。
疲れているだけかもしれないし、そういう時期なのかもしれない。でも、量はあるのに質が薄い、というのは、意外と胸に静かに刺さります。
米国の心理学者ケノン・シェルドン(Kennon M. Sheldon)とソニア・リュボミルスキー(Sonja Lyubomirsky)が2012年に提示した「ヘドニック適応予防(HAP)モデル」では、慣れの進行をゆるめる2つの軸として、「変化(variety)の継続」と「感謝(appreciation)の継続」が挙げられています[4]。
「同じソファに座っている時間」を増やすことよりも、その時間の中身に「気づき」と「感謝」が宿っているかどうか——そちらのほうが、関係の温度感には強く影響したりします。
テレビを見ながらでも、お互いの今日の出来事に少しだけ耳を傾ける。同じ食卓でも、相手の食べ方の変化に気づく。「同じ空間にいる時間」を「気づきが交わる時間」に切り替える意識だけで、対処として有効な入り口になります。
対処法⑥ 専門家の眼差しを借りる選択肢
スマホで「夫婦カウンセリング」と検索して、そっと画面を消す——そんな夜が、何度かあったりします。相談するほどのことじゃないかもしれない、大げさかもしれない、費用も気になる。理由はいくつも浮かんでくるんですよね。
でも、それは決して「関係が終わった」の合図ではなくて、「自分たちだけで抱えるには少し重い」という自然な感覚だったりします。
6つ目の対処法は、自分たちだけで難しさを感じる時、専門家(夫婦カウンセラー・心理援助の専門家)の眼差しを借りる選択肢を持っておくこと。カナダの心理学者スーザン・ジョンソン(Susan M. Johnson)が2008年に刊行した『Hold Me Tight』で体系化された感情焦点化夫婦療法(EFT)のように、関係を扱うことを得意とする心理援助のアプローチは、近年さまざまに整備されてきています[5]。
専門家相談は「最後の手段」ではなく、「いま起きていることを第三者の応答性のある眼差しのなかで整理する」観察の地図として捉え直すことができます。具体的なアクセス方法や選び方については、当サイトの夫婦カウンセリングのコラムで詳しくご紹介しています。
「相談する」というと別れの前提と感じてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、「相談する=自分たちらしい関係の形を一緒に探す」という姿勢で関わることができます。法律的な判断や金銭的な見立てが必要な場合は弁護士・行政書士・公的な相談窓口、心の負担が大きい場合は心療内科・心理カウンセラー・夫婦療法の専門家など、目的に応じて窓口を選び分ける視点も持っておけるとよいでしょう。
愛着の研究では、長く続く関係において、お互いの「近づき方」「距離の取り方」の傾向を理解することが、すれ違いを和らげる手がかりになると指摘されています[6]。専門家との対話のなかで、ご自身とふたりの愛着スタイルを少しずつ言葉にしていくことも、関係の輪郭を整える助けになります。
より深く整える補足観点——観察の輪郭・修復・触れ合い・未来・自己ケア
ここまでご紹介した6つの短期実践に加えて、ご自身の関係をより立体的に観察するための補足観点を、心理学の知見から6つお伝えします。先の6実践がそのまま実行に移せる手当てなら、この補足観点は「対処の前後で関係をどう観察するか」という眼差しのチューニングです。
観察の輪郭を描く——4タイプによる事前観察
友だちと話していて「うちも倦怠期かも」と言うと、相手も「うちもうちも」と返してくれる。でも、よく聞くと、お互いの「倦怠期」は同じ言葉で語られていても中身がずいぶん違っていたりします。
同じ「倦怠期」と感じていても、関係のなかで何が起こっているかは、お二人それぞれ。本サイトでは、関係のいまを冷却型・再燃可能型・並走型・距離拡大型の4つのタイプとして描き出していますが、これらは固定された運命ではなく、ご自身の選択と日々のふるまいで少しずつ移ろっていくものと捉えています。タイプそれぞれに合う対処の手がかりは異なるため、まずはご自身の関係の輪郭を観察するところからはじめてみてください。
修復の試み(repair attempts)を交わす
言い合いのあとの気まずさが、翌朝の食卓にまで残っている。「おはよう」の声だけがなんとなく低い——そんな朝、ありませんか。そこで相手が「昨日、ちょっと言いすぎた」とぽつり漏らしてくれると、胸の温度がすっと戻ることがあります。
長期的な夫婦研究では、長く安定する関係の鍵として、修復の試み(repair attempts)と呼ばれるふるまいが繰り返し観察されてきました[7]。「ごめん、言いすぎた」「いや、こっちもだった」——こうした微細な応答が、ふたりの間にまだ交わせるかどうか。これは関係の回復力を測るひとつの軸でもあり、対処の起点でもあります。対処法④と表裏一体の観点として、意識しておくと、毒に気づいた瞬間の「言い直し」が自然になっていきます。
ふたりだけの時間を取り戻す
子どもが寝たあとのリビング。テレビをつけたまま、それぞれのスマホ。「一緒にいる時間」は確かにあるのに、「ふたりだけの言葉」は交わせていない——そんな夜、覚えがあるでしょうか。
日々のすれ違いや忙しさのなかで、「ふたりだけの話題」「ふたりだけの言葉」を交わす時間が減っていくと、相手の内面が見えづらくなります。心理療法の現場では、長期関係における「親密さ」と「距離」のバランスが、関係の活力を左右することが指摘されています[8]。長時間でなくてかまいません。一日のなかに、たとえ10分でも、ふたりだけで話す・歩く・お茶を飲む時間を意識的につくることが、関係の温度感に少しずつ返ってきます。
触れ合いの「量」より「質」を見直す
そういえば、最後に手をつないだのはいつだったっけ——ふと立ち止まって考えると、思い出せなかったりします。無理に手をつなごうとするのも、それはそれで気恥ずかしい。悪気があって離れているわけじゃないのに、なんとなく距離ができている感じがあります。
身体接触の心理学では、配偶者と手をつなぐことで脅威に対する脳反応が低下するなど、ちいさなスキンシップが安心感や信頼感を支える役割を持つことが示されています[9]。倦怠期のなかでスキンシップが減っているとき、無理に元に戻そうとする必要はありません。すれ違いざまに肩に触れる、出かける前に手を握る、寝る前に背中をさする——短くてもいいから、心が籠もった一瞬を、一日のなかにひとつだけ持つことから始めてみてください。
ふたりの未来をちいさく語る
「来年の連休、どうしようか」と切り出して、返事は「まだ考えてない」の一言だった——そんな会話の余韻が、少し寂しい夜があります。未来の話題が減ったのは、たぶんお互い日々に追われているだけ。悪気はないんですよね。
来年の旅行、5年後の暮らし——具体的でなくてもかまいません。ふたりで未来をイメージしようとする意欲そのものが、関係への投資意欲(コミットメント)を映す鏡です[10]。もし話題が見つからなければ、「今度の週末、ふたりで何を食べたい?」のような、ちいさな未来から再開してみることができます。
ご自身の心が疲れていないか観察する
週末の朝、目が覚めても身体が動かない。相手のためでも子のためでもなく、自分のために何かしたい気持ちすら、うまく浮かんでこない——そういう時期、ありますよね。
「相手のため」「子のため」「家族のため」と関係を維持しようとするあまり、ご自身の心が長く疲弊している場合——その状態をご自身が認めることが、まず大切な一歩です。倦怠期の問題か、ご自身の心の枯渇の問題か、両者は重なり合っていることがあります。関係を整える前に、まずご自身の心と身体をいたわる時間を取り戻すことが、結果として関係の温度感にも返ってきたりします。
倦怠期診断の文脈で読み直す6つの対処法
本サイトの倦怠期診断は、関係の温度感を4つのタイプの輪郭で描くツールです。6つの対処法は、4タイプいずれの文脈でも、ご自身の関係に取り入れる出発点として活用できます。
たとえば、冷却型(タイプA)や並走型(タイプC)の温度感では、まず対処法①(気づきの頻度)や対処法②(期待の見直し)から、ご自身のなかで内面的に始められる作業に取り組んでみる選択肢があります。再燃可能型(タイプB)の温度感では、対処法③(小さな新規性)や対処法⑤(共有時間の質)が、おふたりで意識的に試しやすい入り口になることがあります。倦怠期の原因については、倦怠期の原因 7つの背景もあわせてご参考にしていただけます。
倦怠期の全体像を俯瞰されたい場合は、当サイトの倦怠期のすべて|心理学から読む7視点の総合ガイドもあわせてご参考にしていただけます。原因・サイン・兆候・対処法・乗り越え方・立ち直り方を一望できる入口として、ご活用いただけます。
ふたりの関係に取り入れるなら
6つの対処法を、ご自身の関係に取り入れるとき、まずおすすめしたいのは、「全部を一度にやろうとしない」ことです。対処法はどれも継続のなかで効果を発揮するものであり、一度に全てを試そうとすると、それ自体が新しい負担になってしまいます。
6つのうち、いま最も気になるひとつを選んで、ご自身のペースでゆっくり試してみてください。本サイトの20問のセルフチェックは、その「観察の地図」のひとつとして、関係の温度感をやわらかく描き出すツールです。対処法の地図と、関係の温度の地図——ふたつの地図を重ねながら、ご自身とふたりの関係を、いつもより少しやわらかく見つめ直していただけたらと思います。
参考文献・出典
- Karney, B. R., & Bradbury, T. N. (1995). The longitudinal course of marital quality and stability: A review of theory, method, and research. Psychological Bulletin, 118(1), 3-34. PubMed ↩
- Aron, A., Norman, C. C., Aron, E. N., McKenna, C., & Heyman, R. E. (2000). Couples' shared participation in novel and arousing activities and experienced relationship quality. Journal of Personality and Social Psychology, 78(2), 273-284. PubMed ↩
- Gottman, J. M. & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. New York: Crown Publishers. ↩
- Sheldon, K. M., & Lyubomirsky, S. (2012). The challenge of staying happier: Testing the Hedonic Adaptation Prevention (HAP) model. Personality and Social Psychology Bulletin, 38(5), 670-680. ↩
- Johnson, S. M. (2008). Hold Me Tight: Seven Conversations for a Lifetime of Love. New York: Little, Brown and Company. ↩
- 岡田尊司 (2011). 『愛着障害——子ども時代を引きずる人々』 光文社新書. ↩
- Gottman, J. M. & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. Crown Publishers. (Repair Attempts) ↩
- Perel, E. (2006). Mating in Captivity: Unlocking Erotic Intelligence. Harper. ↩
- Coan, J. A., Schaefer, H. S., & Davidson, R. J. (2006). Lending a hand: Social regulation of the neural response to threat. Psychological Science, 17(12), 1032-1039. ↩
- Sternberg, R. J. (1986). A Triangular Theory of Love. Psychological Review, 93(2), 119-135. ↩