COLUMN

マンネリと倦怠期の違い
2つの言葉の境界線を心理学から整理する

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この記事の要点
  • 「マンネリ」と「倦怠期」の意味の違いを、日常での使われ方・心理学・観察軸の3つの角度から整理して理解できます
  • マンネリは「状態」を、倦怠期は「時期」を指す言葉として、それぞれの役割の輪郭がわかります
  • ご自身の関係を観察するときに、2つの言葉を対立ではなく重ねて使うための、具体的な手がかりが身につきます

友達とお茶をしていて、「うち、ちょっとマンネリで」「あー、うちは倦怠期かも」と会話が流れる瞬間、ありませんか。同じような話をしているように聞こえて、実は言っている本人たちの感覚は、少しずつ違うものを指していたりします。

「マンネリ」と「倦怠期」は、関係の温度感を語るときに、よく並んで使われる言葉です。けれど、立ち止まって考えてみると、この2つは同じことを指しているようで、少しずつ違う輪郭を持っています。どこが似ていて、どこが違うのか——その境界線が見えてくると、ご自身の関係を観察する手がかりも、もう少し細やかになっていきます。

本記事では、マンネリと倦怠期の違いを、日常での使われ方・心理学の視点・観察軸の3つの角度から整理し、倦怠期診断の文脈での読み方を、やわらかくご紹介していきます。

日常での使われ方の違い——状態と期間

日曜日の午後、ソファでスマホを触りながらぼんやり思う——「うちってマンネリだよなぁ」。あるいは夜、寝る前に天井を見つめながら「もう倦怠期に入っちゃったのかな」。似たような場面で使う2つの言葉ですが、口に出したときの手ざわりは、実はすこし違います。

まず、ふだんの会話のなかで2つの言葉がどのように使われているかを観察してみると、その違いが少しずつ見えてきます。

マンネリ」は、関係に限らず、「同じパターンが繰り返されている状態」を指して幅広く使われる言葉です。「仕事がマンネリ化してきた」「いつもの店ばかりでマンネリだ」——というように、必ずしも夫婦やカップルに限定されない、生活全般のパターン化を表す言葉として、現代の日本語のなかに定着しています。マンネリの本質は「変化のなさ」であり、ある一定の状態が継続している様子を示します。

一方、「倦怠期」は、語感のなかに「期(=ある期間)」を含んでいる言葉です。「いつから倦怠期に入った」「倦怠期を抜けた」というように、関係のなかの特定の時期・段階を指す使われ方が中心です。「倦怠期」が用いられるシーンは、基本的に夫婦・恋人など2人の関係に限定されていて、生活全般や個人の状態を指して「倦怠期」と表現することはほとんどありません。

この使われ方の違いだけでも、輪郭の差が見えてきます。マンネリは「パターン化された状態(個人にも関係にも使える)」、倦怠期は「関係のなかの特定の時期(関係に限定)」——という、語感の差です。

心理学から見る違い——情熱的愛と友愛的愛のあいだ

付き合いはじめの頃、相手の声を聞くだけで胸がぎゅっとなった感覚。それが結婚10年目のいま、玄関で「おかえり」と交わすときの、あの静かなあたたかさに変わっている——同じ相手なのに、感情の色合いはずいぶん違って感じられたりします。

使われ方の違いを踏まえたうえで、心理学の知見から両者を見直すと、もう少し立体的な輪郭が立ち上がってきます。米国の心理学者エレイン・ハットフィールド(Elaine Hatfield)とG・ウィリアム・ウォルスター(G. William Walster)は、1978年にAddison-Wesley社から刊行した『A New Look at Love』のなかで、愛を2つの主要な型に分けて整理しました[1]

ハットフィールドらの整理では、(a)情熱的愛(passionate love)——憧れ、理想化、性的な引かれ、相手と完全に一つになりたいという願いを伴う激しい感情状態と、(b)友愛的愛(companionate love)——情熱的愛と同じやさしさや愛情を持ちつつも、より穏やかでゆるやかな結びつき、の2種類が区別されています。さらに1986年、ハットフィールドとスーザン・スプレッチャー(Susan Sprecher)は『Journal of Adolescence』で「情熱的愛尺度(Passionate Love Scale)」を発表し、この情熱の強さを定量的に測ることもできるかたちに整理しました[2]

関係を時間軸で見ると、多くの場合、情熱的愛は出会いから比較的早い時期に最高潮を迎え、その後ゆるやかに減衰していきます。一方、友愛的愛は時間とともに育っていく性質があり、長期的な関係のなかで土台になることが多いとされます。この理論を踏まえると、「倦怠期」と呼ばれる時期は、情熱的愛が減衰しつつ、友愛的愛がまだ十分には育ちきっていないあいだの、ある種の「移行期」として読むこともできます。一方、「マンネリ」は、この情熱の減衰に伴って関係のなかに生まれる「パターンの固定化」として位置づけられます[3]

つまり、マンネリは「情熱の減衰が日常のパターンに現れた結果」、倦怠期は「情熱から友愛への移行が起きている時期」——という、現象と時間の違いとして整理することができます。

マンネリは個人領域も含む——倦怠期はもっぱら関係領域

「最近ヨガもマンネリで飽きてきたから、新しいスタジオ探してるんだよね」——ふつうに交わされる一言ですが、ここで「倦怠期に入ったから」と言い換えると、なんだか妙な感じがしますよね。同じ「飽き」を扱う言葉なのに、乗せられる文脈が違うんです。

もう一つの大きな違いは、2つの言葉がカバーする領域の広さです。

「マンネリ」は、関係の領域だけでなく、個人の生活や仕事、趣味、習慣など、ありとあらゆる「繰り返されるもの」に対して使うことができる言葉です。「最近、運動のメニューがマンネリだな」「ブログの内容がマンネリ化してきた」——というように、関係以外の領域での使われ方も自然です。これは、マンネリの本質が「パターン化」「変化のなさ」という抽象的な現象を指しているためで、対象を選ばないという特徴があります。

一方で「倦怠期」は、上で述べたとおり、2人の関係のなかでの温度の変化を指す言葉として用いられてきました。「仕事の倦怠期」という言い方も全く存在しないわけではありませんが、それは関係の倦怠期からの比喩的な転用に近く、言葉の中心的な使い方は「夫婦・恋人の関係のなかの温度の変化」に置かれています。

この「カバーする領域の広さ」の違いは、両者を理解するうえでとても大事な視点です。マンネリは関係のなかにも個人のなかにも現れる現象であるのに対し、倦怠期は関係のなかにのみ立ち上がる現象——という非対称な構造があります。関係のなかでマンネリと倦怠期が同時に語られるのは、この2つの現象が「関係領域で重なり合う場所」に立ち上がるためです。

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観察軸の違い——「何が変わらないか」と「いつから冷えたか」

ふと、「うちっていつからこうなったんだろう」と考える夜と、「うちって毎回この繰り返しだよね」と気づく朝。似た気分から出発しても、頭の中で回っている問いは、実は違う方向を向いていたりします。

マンネリと倦怠期の違いは、「観察するときに使う軸」にも現れます。

マンネリを観察するときに自然と立ち上がってくるのは、「何が変わらないか」「どのパターンが繰り返されているか」という、内容軸の観察です。会話の話題、休日の過ごし方、食卓での会話、就寝前のやり取り——その「中身」がどんなパターンを描いているかが、観察の対象になります。マンネリの観察は、関係の「形」をなぞるように進みます。

一方、倦怠期を観察するときに立ち上がってくるのは、「いつから関係の温度が変わったのか」「どんなペースで変わっていったか」という、時間軸の観察です。「子どもが生まれたあたりから」「異動があったあとから」「あの会話のあとから」——という時系列での節目を探す観察の動きです[4]

大事なのは、これら2つの観察軸は「対立する」のではなく「補い合う」関係にある、ということです。内容軸(マンネリの観察)と時間軸(倦怠期の観察)を重ねると、関係の輪郭は、より立体的に見えてきます。「いつから(時間軸)、何が(内容軸)、変わらなくなったか」——という両方の問いを持つことで、関係のなかで起きている変化を、より細やかに観察できるようになります。

倦怠期診断の文脈で読み直す両者の違い

本サイトの倦怠期診断は、関係の温度感を4つのタイプの輪郭で描くツールです。マンネリと倦怠期の違いを踏まえて4タイプを読み直すと、それぞれの関係性が見えてきます。

たとえば、冷却型(タイプA)並走型(タイプC)の温度感のなかには、マンネリの要素と倦怠期の要素が同時に存在していることが多くあります。「義務感は強く愛情表現が枯れている」「家庭運営は機能、感情交流は希薄」という輪郭は、内容軸(=マンネリの観察)と時間軸(=倦怠期の観察)の両方で読み解くことができる温度感です。

一方、再燃可能型(タイプB)の温度感は、マンネリよりも倦怠期(=移行期)の輪郭に近いと整理することができます。情熱的愛から友愛的愛への移行のあいだに、相互の関心が双方にまだ残っている状態——という読み方です。距離拡大型(タイプD)も、マンネリよりも倦怠期の時間軸の終盤に近い温度感として位置づけられることがあります。

マンネリと倦怠期の概念的な接続については、当サイトのマンネリ|慣れの正体を心理学から読み解くマンネリ化とは|プロセスと段階のコラムでも、それぞれ別の角度から扱っています。あわせてご参考にしていただけます。

ふたりの関係に取り入れるなら

「マンネリ」「倦怠期」——どちらの言葉がしっくりくるかで悩む必要は、実はあまりないんですよね。カレンダーを開いて「変化のない生活パターン」に目を向けるのと、去年のアルバムを見返して「あの頃と何がちがう?」と思い出すのは、地図の使い方が違うだけ。両方持っていていい地図です。

「マンネリと倦怠期はどちらだろう」と、ご自身の関係に当てはめるとき、まずおすすめしたいのは、「どちらか一方を選ぶ」のではなく「両方の地図を重ねて観察する」視点です。マンネリは内容軸(何が繰り返されているか)、倦怠期は時間軸(いつから変わったか)——という2つの異なる観察軸として、両方の言葉を使い分けることで、ご自身の関係の輪郭を、もう少し細やかに描けるようになります。

本サイトの20問のセルフチェックは、その「観察の地図」のひとつとして、関係の温度感を4つのタイプの輪郭でやわらかく描き出すツールです。マンネリの地図と、倦怠期の地図と、関係の温度の地図——3つの地図を重ねながら、ご自身とふたりの関係を、いつもより少しやわらかく見つめ直していただけたらと思います。

参考文献・出典

  1. Hatfield, E., & Walster, G. W. (1978). A New Look at Love. Reading, MA: Addison-Wesley.
  2. Hatfield, E., & Sprecher, S. (1986). Measuring passionate love in intimate relationships. Journal of Adolescence, 9(4), 383-410. PubMed
  3. Brickman, P., & Campbell, D. T. (1971). Hedonic relativism and planning the good society. In M. H. Appley (Ed.), Adaptation-Level Theory (pp. 287-302). New York: Academic Press.
  4. Karney, B. R., & Bradbury, T. N. (1995). The longitudinal course of marital quality and stability: A review of theory, method, and research. Psychological Bulletin, 118(1), 3-34.

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