マンネリを解消するには
慣れの自然さを受けとめながら関係をやわらげる5つの手がかり
- 「マンネリを完全に消す」のではなく、「進み方をやわらげる」発想への切り替えが身につきます
- 小さな新規性・感謝・共有・言葉・専門家という5つの手がかりが、心理学の一次資料をもとに整理されています
- 批評の言葉から観察の言葉への選び直し——関係への接し方の温度を変える具体的なヒントがわかります
「マンネリを解消したい」と検索される方の多くは、関係のなかで起きている「いつもと同じ」「以前ほど特別に感じない」という感覚に、なんとかしたいという気持ちを抱えていらっしゃいます。けれど、心理学の知見を踏まえて言葉を選び直すと、「マンネリを完全に解消する」ことは、人間の感情の仕組みのなかでは難しい——という事実が見えてきます。
本記事では、マンネリを「敵」として打ち消す視点ではなく、「慣れ」という自然な現象を受けとめながら、関係の温度感をやわらげる手がかりを、心理学の研究から5つに整理してご紹介していきます。倦怠期診断の文脈で、ご自身の関係に少しずつ取り入れるヒントとしてご活用いただけたらと思います。
「解消」より「やわらげる」——心理学から見たマンネリの本質
「解消」という言葉って、なんだか少し力が入る響きがあります。何かをきっぱり片づける、ゼロにする——そう構えると、ちょっと肩が重くなったりします。悪気があるわけではなくて、疲れているだけかもしれないのに、無理に解決モードに入ってしまう夜があるんですよね。
そのボタンを、まずはそっと押し戻すところから始めてみます。
マンネリの本質を、心理学の言葉で言い換えると、最も近いのは「ヘドニック適応(hedonic adaptation)」という概念です。1971年にブリックマンとキャンベルが米国Academic Pressから刊行された『Adaptation-Level Theory』のなかで提示したこの考え方によれば、私たちの感情は、繰り返される刺激に対して、自然と慣れていく性質を持っています[1]。出会った頃の新鮮さが時間とともに薄まっていくのは、関係そのものの問題ではなく、人間の感情の構造のなかにある現象です。
この前提を踏まえると、マンネリへの向き合い方は、「完全になくす」のではなく「進み方を緩める」方向に発想を切り替えるのが現実に近い読み方になります。「解消」という言葉のなかに、つい「ゼロにする」というイメージを重ねてしまいがちですが、心理学が示してきたのは、「自然な減衰のペースを、意識的な手当てで緩めることはできる」という、もう少し穏やかな結論です。
以下に、その「緩めるための手がかり」を5つ、ご紹介していきます。
手がかり①——小さな新規性を取り入れる
「新しいことを、と言われても」と思う夜があるかもしれません。仕事も家事もあって、時間もエネルギーも限られている。大きな旅行や特別な計画を組む余裕がない日々のほうが、多かったりします。
でも、心理学が示してくれるのは、そこまで大きな変化ではなくても大丈夫だよ、というやさしい結論だったりします。
もっとも実証的な根拠のある手がかりが、「ふたりにとって新しい体験を共有する」ことです。米国の社会心理学者アーサー・アロン(Arthur Aron)らが2000年に『Journal of Personality and Social Psychology』で発表した研究では、夫婦やカップルにたった7分間の新規性のある活動を共有してもらうだけで、関係満足度が向上したことが報告されています[2]。
大事なのは、新規性=「大きなイベント」「特別な旅行」である必要はないということです。アロンらの実験で示されたのは、「ふたりにとって普段やらないこと」を一緒に試すという、ささやかな新規性の効果です。いつもと違う散歩道を歩く、まだ行ったことのないお店で食事する、二人とも初めての料理を一緒に作ってみる、観たことのないジャンルの映画を一緒に観る——そんな「小さな新しさ」を意識的に取り入れる習慣が、関係の温度感を少しずつやわらげる方向にはたらきます。
手がかり②——「あって当たり前」を気づき直す感謝
玄関にきちんと揃えられた靴、洗い終えたお皿、当たり前のように届いている「ただいま」の声——一日にいくつも、小さな支えが流れています。気づけているときは温度感が保たれ、気づかなくなると景色が少しずつ薄くなる、そんな不思議な力を持っていたりします。
もうひとつの手がかりは、「あって当たり前」になっていることを「気づき直す」習慣です。米国の心理学者ケノン・シェルドン(Kennon M. Sheldon)とソニア・リュボミルスキー(Sonja Lyubomirsky)が2012年に提示した「ヘドニック適応予防(HAP)モデル」では、ヘドニック適応の進行を緩める2つの軸として、「変化(variety)の継続」と「感謝(appreciation)の継続」が挙げられています[3]。
感謝の継続というのは、特別な感謝の言葉を毎日大げさに伝えることではありません。むしろ、相手が毎日してくれている小さなこと、初めて会った頃に「すごい」と思った相手の側面、いまの暮らしのなかで自然と支えられている部分を、もう一度言葉にして気づき直す——という、内面的な作業です。「ありがとう」を口に出すかどうかにかかわらず、自分のなかで「気づき」を更新し続けることが、関係の温度感を保つうえで、地味だけれども確実な土台になります。
手がかり③——共有された活動の質を見直す
同じ食卓で、同じテレビを見て、同じ時間を過ごしている——にもかかわらず、なぜか隣同士の距離だけが遠く感じる夜があります。「一緒にいる時間」の量ではなくて、そのなかで交わされている小さな眼差しの質が、少し薄まっているのかもしれません。
3つ目の手がかりは、ふたりが共有する活動の質を、「何をするか」だけでなく「どう共有するか」の観点から見直すことです。米国の心理学者ジョン・ゴットマン(John M. Gottman)が1999年に提示した「Sound Relationship House(健全な関係の家)」の7原則のなかには、「歩み寄り」「愛情と尊敬を育てる」「内面地図を知る」といった、共有の質に関わる項目がいくつも含まれています[4]。
ゴットマンの長期研究で繰り返し示されてきたのは、「華やかな共有」よりも「日常の小さな共有のクオリティ」が、関係の安定に貢献するということです。同じ食卓でも、お互いの今日の出来事に少しだけ耳を傾けるかどうか。同じソファでも、相手の小さな仕草に気づくかどうか。ときには沈黙の共有——同じ空間にいる時間を、お互いに穏やかに過ごせる感覚——も、関係の質を支える要素のひとつです。
手がかり④——観察の言葉を選び直す
「うちはマンネリだから」——ふとつぶやいたその一言が、意外と自分の胸のなかにじわっと残ることがあります。事実を言ったつもりが、その言葉に含まれている評価が、自分の気持ちの色まで少し変えてしまう感じ。
言葉の力って、思っている以上に大きかったりします。
4つ目の手がかりは、ご自身が関係を眺めるときに使う「言葉そのもの」を選び直すことです。同じ現象を「マンネリだ」と呼ぶか、「ルーティンが落ち着いてきた」と呼ぶかで、関係への向き合い方の温度は変わってきます。「マンネリ」という言葉は、批評の言葉として日本語のなかに広がってきた歴史を持つため、知らず知らずに「望ましくない、変えるべき」というニュアンスを運んでくることがあります。
言葉の選び直しは、決して「事実を歪める」ことではありません。むしろ、同じ事実に対して、複数の角度から光をあててみる試みです。「マンネリだ」と「習慣が定着している」と「ルーティン化している」と「定常状態にある」——どの言葉も、ある程度は同じ現象を指しています。けれど、その選び方によって、ご自身の感情の動きが変わり、関係への接し方が変わってきます。マンネリの言葉の選び方については、当サイトのマンネリの語源・言い換えのコラムでも、より詳しく整理しています。
ご自身とふたりの関係の温度感を
20問のセルフチェックで見つめ直してみませんか?
手がかり⑤——専門家の眼差しを借りる
「カウンセリング」と聞くと、なにかとても大きな一歩に感じてしまうことがあります。うちはまだそこまでじゃない、迷惑をかけたくない、そう思って選択肢の外に置いてきた方もいらっしゃるかもしれません。
でも、専門家の眼差しは「壊れてから修理する」ためだけのものではなくて、地図を広げるための道具として使うこともできたりします。
5つ目の手がかりは、自分たちだけで難しさを感じる時、専門家(夫婦カウンセラー・心理援助の専門家)の眼差しを借りる選択肢を持っておくことです。カナダの心理学者スーザン・ジョンソン(Susan M. Johnson)が2008年に米国Little, Brown and Companyから刊行した『Hold Me Tight』のなかで体系化された感情焦点化夫婦療法(EFT)のように、関係を扱うことを得意とする心理援助のアプローチは、近年さまざまに整備されてきています[5]。
大事なのは、専門家相談を「最後の手段」ではなく「観察の地図を広げる手立て」として捉え直すことです。お互いだけでは見えにくくなっている関係の構造を、第三者の応答性のある眼差しのなかで、改めて整理する作業——として読むことができます。具体的なアクセス方法や、カウンセリングの選び方については、当サイトの夫婦カウンセリングのコラムで詳しくご紹介しています。
倦怠期診断の文脈でマンネリ解消を読み直す
ここまで読んで、「うちだと、どこから始めればいいんだろう」と気になる方もいらっしゃるかもしれません。関係の温度感によって、取り入れやすい手がかりの順番も、実は少しずつ違ってきたりします。
本サイトの倦怠期診断は、関係の温度感を4つのタイプの輪郭で描くツールです。5つの手がかりは、4タイプいずれの文脈でも、ご自身の関係に取り入れる出発点として活用できます。
たとえば、冷却型(タイプA)や並走型(タイプC)の温度感では、まず手がかり②(感謝の気づき直し)や手がかり④(言葉の選び直し)から、ご自身のなかで内面的に始められる作業に取り組んでみる選択肢があります。再燃可能型(タイプB)の温度感では、手がかり①(小さな新規性)や手がかり③(共有の質)が、おふたりで意識的に試しやすい入り口になることがあります[6]。
マンネリの基本概念や倦怠期との違いについては、当サイトのマンネリ|慣れの正体を心理学から読み解く・マンネリ化とは・マンネリと倦怠期の違いのコラムでも、それぞれ別の角度から扱っています。あわせてご参考にしていただけます。
ふたりの関係に取り入れるなら
「今日から全部変えよう」と思うと、それだけで少し疲れてしまいます。全部やり切らなきゃ、と気負う夜ほど、続かないものだったりします。
5つの手がかりを、ご自身の関係に取り入れるとき、まずおすすめしたいのは、「全部を一度にやろうとしない」ことです。マンネリの進み方を緩める手立ては、どれも継続のなかで効果を発揮するものであり、一度に全てを試そうとすると、それ自体が新しい「やらなければならないこと」になってしまいます。
5つのうち、いま最も気になるひとつを選んで、ご自身のペースでゆっくり試してみてください。新しい散歩道をひとつ選ぶ、今日の相手の小さな仕草に気づき直す、いつも使っている「マンネリ」の言葉を別の言葉に置き換えてみる——どんな小さな試みも、関係の温度感の観察の起点になります。本サイトの20問のセルフチェックは、その「観察の地図」のひとつとして、関係の温度感をやわらかく描き出すツールです。マンネリを緩める5つの地図と、関係の温度の地図——ふたつの地図を重ねながら、ご自身とふたりの関係を、いつもより少しやわらかく見つめ直していただけたらと思います。
参考文献・出典
- Brickman, P., & Campbell, D. T. (1971). Hedonic relativism and planning the good society. In M. H. Appley (Ed.), Adaptation-Level Theory (pp. 287-302). New York: Academic Press. ↩
- Aron, A., Norman, C. C., Aron, E. N., McKenna, C., & Heyman, R. E. (2000). Couples' shared participation in novel and arousing activities and experienced relationship quality. Journal of Personality and Social Psychology, 78(2), 273-284. PubMed ↩
- Sheldon, K. M., & Lyubomirsky, S. (2012). The challenge of staying happier: Testing the Hedonic Adaptation Prevention (HAP) model. Personality and Social Psychology Bulletin, 38(5), 670-680. ↩
- Gottman, J. M. & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. New York: Crown Publishers. ↩
- Johnson, S. M. (2008). Hold Me Tight: Seven Conversations for a Lifetime of Love. New York: Little, Brown and Company. ↩
- Karney, B. R., & Bradbury, T. N. (1995). The longitudinal course of marital quality and stability: A review of theory, method, and research. Psychological Bulletin, 118(1), 3-34. ↩