マンネリ
「慣れ」の正体を心理学から読み解き倦怠期診断の文脈で見つめ直す
- 「マンネリ」を関係の失敗ではなく、人間に自然な「慣れ」の心理として観察する視点が身につきます
- 語源・心理学・関係のなかでの立ち上がり方を、一次資料をもとにやわらかく整理した内容がわかります
- マンネリを緩める「変化」と「感謝」の2つの軸を、義務ではなく前向きな手がかりとして受け取れます
「最近、マンネリかも」と感じる瞬間は、関係のなかでときどき訪れます。同じ会話、同じ予定、同じ反応——そのなかで、以前はあった「うれしい」「驚いた」の温度が、少しずつ薄まっていく感覚。けれど、その「マンネリ」という言葉は、本当に関係の質を測る指標として正確な言葉なのか、立ち止まって考えてみると、輪郭がぼんやりしてくる言葉でもあります。
本記事では、「マンネリ」という言葉を、責めるためや判定するためではなく、「慣れ」という人間の自然な働きを観察するためのサインとして読み直していきます。語源・心理学・倦怠期診断の文脈——3つの角度から、やわらかくご紹介します。
「マンネリ」という言葉の輪郭——語源と現代の使われ方
週末、リビングでスマホを眺めながら「今日どうする?」「うーん、いつもと同じで」というやり取り。悪気があるわけでもなく、疲れているだけなのかもしれません。ただ、その「いつもと同じ」の響きが、少し胸に残ったりします。
言葉って、使い慣れると輪郭がぼやけてくるものなんですよね。「マンネリ」もそういう言葉のひとつかもしれません。まずは、その言葉が元々どこから来たのかから、そっと見つめ直してみます。
「マンネリ」は、英語の「mannerism(マンネリズム)」を略した日本語の俗語です。原語のmannerismは、もとをたどれば16〜17世紀のイタリアで使われた美術用語で、ルネサンス後期の絵画や彫刻が、技法は洗練されているけれど「形式が固定化して新鮮さを失った」と評されたところから生まれました。「manner(様式)」+「-ism(〜主義)」で、「型にはまった様式」を意味する言葉です。
日本語のなかに「マンネリ」が広く定着したのは、戦後の文化評論やテレビ評論の文脈と言われています。当初は美術や芸能の評価として「同じパターンを繰り返している」という意味で使われていた言葉が、やがて、夫婦や恋人の関係を語る場面にまで広がっていきました。
大事なのは、もともとの語源には「悪いこと」という含意は必ずしもなかったという点です。「型がある」「様式が安定している」という意味あいで使われていた言葉が、繰り返しのなかでネガティブな響きを帯びていった——その経緯を知るだけでも、いま自分たちが「マンネリ」と呼んでいるものを、少し違う角度から見直す手がかりになります。
心理学から見る「マンネリ」——ヘドニック適応
初めて一緒に出かけたカフェの匂い、初めて手をつないだ夜の空気——覚えているのに、いまはそこまで胸が動かない。それは冷めたわけではなくて、脳が「その場所」に慣れてしまっただけなのかもしれません。
責める気持ちより先に、「そういうものなのかな」という静かな理解が来る。そんな見方を支えてくれるのが、次に紹介する心理学の概念だったりします。
「マンネリ」という現象を、心理学の言葉で言い換えると、最も近いのは「ヘドニック適応(hedonic adaptation)」という概念です。1971年に米国Academic Pressから刊行された『Adaptation-Level Theory』のなかで、社会心理学者フィリップ・ブリックマン(Philip Brickman)とドナルド・キャンベル(Donald T. Campbell)が発表した「Hedonic Relativism and Planning the Good Society」という章で、この考え方の核心が提示されました[1]。
ブリックマンらの整理によれば、私たちの感情は、外側からの刺激に対して「相対的」に反応します。新しい体験や予想外の出来事には強い喜びや驚きを感じますが、その体験が繰り返されるうちに、感情の強さは少しずつ薄まり、ある「ベースライン(基準点)」に戻っていく。これは、良いことだけでなく、悪いことに対しても同じように働きます。後の研究者がこの現象を「ヘドニック・トレッドミル」(快楽の踏み車・走り続けても同じ場所に戻ってきてしまう)と呼んで比喩したことで、概念は広く知られるようになりました。
関係のなかで起きている「マンネリ」は、このヘドニック適応がとても自然なかたちで現れている現象です。出会った頃の「初めての驚き」「初めての安心感」「初めて並んで歩く感覚」——それらは、繰り返されることで脳のなかでの新規性が下がり、感情の強さも少しずつベースラインに戻っていきます。「相手のことを以前ほど特別に感じない」のは、相手が変わったのでも、関係が冷えたのでもなく、人間の感情の仕組みがそうできている——この前提を知るだけでも、「マンネリ」を関係の失敗の印として受け取る必要がなくなります。
関係のなかで「マンネリ」が立ち上がるメカニズム
玄関で「おかえり」と言う声のトーン、夕食の献立、ソファに座る位置——気づけば、いつの間にか「決まった型」になっていたりします。悪いことは何も起きていないのに、なぜかその「型」に少しだけ息苦しさを感じる夜。
それは相手が変わったわけでも、関係が薄れたわけでもなく、ふたりの日常が「予測できる形」に落ち着いてきた、というだけなのかもしれません。ここからは、その「落ち着き」がなぜ「マンネリ」として感じられるのかを、少し細かく分けて見ていきます。
ヘドニック適応の働きを踏まえると、関係のなかで「マンネリ」が立ち上がるメカニズムは、いくつかの要素に分解できます。
第一に、「家族化」によって新規性が減ること。長く関係を続けていくと、ふたりの間で起こりえる体験のレパートリーが、互いに「既知のもの」になっていきます。家での過ごし方、休日の予定、会話の話題——それらが「定番」として安定するほど、ヘドニック適応の働きが進みやすくなります。これは関係が悪化しているのではなく、関係が「予測可能で安定した状態」になっている、と捉えることもできます。
第二に、「気づきのレパートリー」が固定化すること。私たちは、相手の同じ仕草を毎日見ているうちに、その仕草に「気づく」ということそのものをしなくなります。相手のやさしさ、ささやかな配慮、毎日繰り返される小さな貢献——それらは「あって当たり前」のものとして処理されるようになり、感情の動きを生まなくなっていきます[2]。
第三に、関係の外側にある新規体験との「対比」が、関係内のマンネリ感を強める方向に働くこと。職場での新しい出来事、SNSで見る他者の体験、旅行や趣味での新鮮な刺激——それらと比較したときに、「ふたりの関係はいつも同じ」という感覚が立ち上がりやすくなります。けれど、これは関係そのものの問題というよりも、比較の枠組みが変わったことによる相対的な現象として理解することもできます。
ご自身とふたりの関係の温度感を
20問のセルフチェックで見つめ直してみませんか?
マンネリの予防——「変化」と「感謝」の2つの軸
「何か変えなきゃ」と思うと、少し肩に力が入ってしまう気がします。旅行の予約を取らなきゃ、記念日を華やかにしなきゃ——そう並べていくと、なんだか疲れてしまう夜もあるかもしれません。
でも、心理学が示してくれる手立ては、もう少し小さくて、もう少しやわらかいものだったりします。「変えなきゃ」ではなく、「少しだけずらしてみる」「少しだけ気づき直してみる」——そんな軸として受け取ってみます。
ヘドニック適応は人間の生理的な働きであり、避けることはできません。けれど、その進み方を緩めることはできる——という研究も、近年積み重ねられてきています。米国の心理学者ケノン・シェルドン(Kennon M. Sheldon)とソニア・リュボミルスキー(Sonja Lyubomirsky)は2012年に『Personality and Social Psychology Bulletin』で「Hedonic Adaptation Prevention(HAP)モデル」を提示しました[3]。
HAPモデルでは、ヘドニック適応を遅らせる2つの軸が提示されています。ひとつは「変化(variety)の継続」、もうひとつは「感謝(appreciation)の継続」です。新しい体験を関係のなかに取り入れ続けること——大きなものでなくてもよく、いつもと違うルートで散歩する、新しい店で食事する、季節の小さなイベントに参加する、そんな小さな変化の積み重ねが、関係のヘドニック・ベースラインを少しだけ揺らし続ける働きをします。
もうひとつの「感謝の継続」は、「あって当たり前」を「気づき直す」という作業です。相手が毎日してくれている小さなこと、初めて会った頃に「すごい」と思った相手の側面、いまの暮らしのなかで自然と支えられている部分——それらを、もう一度言葉にして気づき直す習慣が、関係の温度感を保つうえで、地味だけれども確実な土台になります。
大切なのは、この2つの軸を「マンネリを解消するための義務」として受け取らないことです。HAPモデルの意義は、マンネリ自体を悪としてではなく、「自然な現象なので意識的に手当てができる」という前向きな視点を与えてくれることにあります。
倦怠期診断の文脈で読み直すマンネリ
「マンネリ」という言葉ひとつでも、感じている温度感は人によって違います。同じ「最近マンネリかも」でも、その奥にあるのは寂しさだったり、静かな安心だったり、少しの違和感だったり——ほんとうにさまざまなんですよね。
本サイトの倦怠期診断は、関係の温度感を4つのタイプの輪郭で描くツールです。マンネリという現象は、これらのタイプの文脈で読み直すと、興味深い視点が立ち上がってきます。
たとえば、冷却型(タイプA)や並走型(タイプC)の温度感のなかで「マンネリ」を感じている方の話をうかがうと、その感覚の奥には、「変化のなさ」よりも「気づきの止まり」が横たわっていることがしばしばあります。客観的には新しい出来事がある日々を送っていても、そこに「気づき直す習慣」が薄くなっていると、ヘドニック適応が進んだ状態と同じように、関係の温度感が低く感じられる——というかたちです。
逆に、外から見ると「変化の少ない毎日」を送っているふたりが、お互いの小さな変化や貢献に丁寧に気づいて言葉にしあっている関係では、「マンネリ」とは違う温度感が保たれていることも、現実の関係のなかではよく観察されます。マンネリを「変化の少なさ」だけで測るのは、関係の輪郭を捉えきれない、ということでもあります。
関係のなかで「マンネリ」を感じたとき、その奥にあるものを観察する手がかりとして、当サイトのセックスレス・夫婦の寝室・夫婦カウンセリングのコラムも、あわせてご参考にしていただけます。
ふたりの関係に取り入れるなら
ここまで読んできて、「じゃあ、私はどうすれば?」と、少しだけ手のひらが動くような感覚があるかもしれません。すぐに何かを変えなくてもよくて、まずは自分のなかの前提を、そっと置き直してみるところからで大丈夫だったりします。
マンネリの話題を、ご自身の関係のなかに取り入れるとき、まずおすすめしたいのは、「マンネリ=関係の失敗」という前提を、いったん手放してみることです。ヘドニック適応は人間の自然な働きであって、それ自体は責められるべきものではありません。長く続く関係のなかで「以前ほど特別に感じない」のは、関係が深まり、安定してきたことの一つの現れでもあります。
そのうえで、ご自身のなかで「いまの関係に、変化と感謝のどちらを少し増やしてみたいか」を、責めず・急がず・やわらかく観察してみてください。本サイトの20問のセルフチェックは、その「観察の地図」のひとつとして、関係の温度感をやわらかく描き出すツールです。マンネリの心理学的な地図と、関係の温度の地図——ふたつの地図を重ねながら、ご自身とふたりの関係を、いつもより少しやわらかく見つめ直していただけたらと思います。
参考文献・出典
- Brickman, P., & Campbell, D. T. (1971). Hedonic relativism and planning the good society. In M. H. Appley (Ed.), Adaptation-Level Theory (pp. 287-302). New York: Academic Press. ↩
- Karney, B. R., & Bradbury, T. N. (1995). The longitudinal course of marital quality and stability: A review of theory, method, and research. Psychological Bulletin, 118(1), 3-34. PubMed ↩
- Sheldon, K. M., & Lyubomirsky, S. (2012). The challenge of staying happier: Testing the Hedonic Adaptation Prevention (HAP) model. Personality and Social Psychology Bulletin, 38(5), 670-680. ↩