COLUMN

倦怠期の原因
長く続く関係に立ち上がる7つの背景を心理学から整理する

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この記事の要点
  • 倦怠期の原因を、心理学の研究から7つの背景として整理して理解できます
  • 情熱の減衰・慣れ・パターン化・ライフステージ変化など、構造的に避けがたい背景の輪郭がわかります
  • ご自身の関係でどの背景が強く重なっているかを、責めず急がず観察するための地図が身につきます

寝る前の暗がりで、天井を見つめながら「どうしてこうなったんだろう」と考える夜、ありませんか。相手が悪いわけでもない、自分が変わったわけでもない、それでも何かが以前とは違う——その正体を、ひとつのことばで言い当てるのは、案外むずかしいものです。

「なぜ倦怠期に入るのか」という問いに、ひとつの答えを返すのは難しい問いです。長く続く関係のなかで温度感が変わってくる現象には、ひとつの大きな原因があるのではなく、いくつもの背景が静かに重なり合って立ち上がっている——というのが、心理学の研究で繰り返し示されてきた読み方です。

本記事では、倦怠期の原因として観察される7つの背景を、心理学の知見から順に整理しながら、倦怠期診断の文脈でご自身の関係を観察するための地図を、やわらかくご紹介していきます。

倦怠期の原因を考える前に——重なりとして読む

「あの人が変わっちゃったからだ」「私が疲れてるだけ」「仕事が忙しいから」——原因をひとつに絞ろうとするたび、なんだかしっくりこない、そんな感覚が残ることがあります。それは、答えが遠いのではなく、答えが「ひとつではない」からかもしれません。

倦怠期の原因を考えるときに、まず手放しておきたいのが「ひとつだけの原因を探す」という姿勢です。「相手が変わってしまった」「自分が冷めただけだ」「忙しさのせいだ」——という単線的な読み方は、現象の一部だけを切り取って見ているにすぎません。実際の関係のなかでは、複数の構造的な背景が同時に進行していて、それらが重なり合うところに「倦怠期」と呼ばれる温度感が立ち上がってきます。

これから整理する7つの背景は、どれもひとつだけでは倦怠期を引き起こさないかもしれませんが、組み合わさることで関係の温度感に影響します。ご自身の関係を観察するときに、「どの背景が、どのくらいの強さで重なっているか」という地図として読んでいただけたらと思います。

原因① 情熱の自然な減衰——passionate love から companionate love へ

結婚式の日、隣にいる相手を見つめて胸が震えた感覚。あの高鳴りが、いまは玄関で「おかえり」と交わすときの、あたたかいけれど静かな空気に変わっている——それは、何かがなくなったのではなく、姿を変えて残っていたりします。

もっとも構造的で、避けがたい背景が、情熱的愛(passionate love)の自然な減衰です。米国の心理学者エレイン・ハットフィールド(Elaine Hatfield)とG・ウィリアム・ウォルスター(G. William Walster)は、1978年にAddison-Wesley社から刊行した『A New Look at Love』のなかで、愛を「情熱的愛」と「友愛的愛(companionate love)」の2つに分けて整理しました[1]

ハットフィールドらの整理によれば、情熱的愛は関係の初期に最高潮を迎え、その後ゆるやかに減衰する傾向を持っています。これは関係そのものが悪化したのでも、相手が変わったのでもなく、人間の感情の構造のなかにある自然な現象です。「以前ほど特別に感じない」という感覚の背景には、この情熱の自然な減衰が、しばしば横たわっています。

原因② ヘドニック適応の働き——「あって当たり前」化のメカニズム

朝、コーヒーがカップに用意されている。夜、玄関のドアが開いて相手が帰ってくる。以前は「うれしいな」と胸がふっとあたたかくなった小さな瞬間が、いつのまにか「あって当然」の景色になっていた、という経験は多くの方にあるかもしれません。

2つ目の背景は、ヘドニック適応(hedonic adaptation)の働きです。1971年にブリックマン(Philip Brickman)とキャンベル(Donald T. Campbell)が『Adaptation-Level Theory』のなかで提示したこの概念によれば、私たちの感情は、繰り返される刺激に対して自然と慣れていく性質を持っています[2]

関係のなかで起きていることに置き換えると、相手の優しさ・小さな配慮・毎日繰り返される貢献——それらが、繰り返されるうちに「あって当たり前」のものとして処理されるようになっていきます。意識的に「気づき直す」習慣がないかぎり、ヘドニック適応の働きは静かに進んでいきます。マンネリの概念とも近い背景ですが、マンネリよりも感情のレベルでの慣れを扱う視点です。

原因③ 共有された新規性の減少——同じパターンへの収束

金曜の夜「今日どうする?」「いつものとこでいい?」「うん、そうしようか」——気づけばこのやり取りを、もう何度繰り返しただろう。悪くない、むしろ楽で心地よい。ただ、心のどこかで「新しい景色を見た日って、いつだっけ」と静かに思ったりします。

3つ目の背景は、ふたりが共有する活動の新規性が減っていくことです。米国の社会心理学者アーサー・アロン(Arthur Aron)らが2000年に『Journal of Personality and Social Psychology』で発表した研究では、夫婦やカップルが「新規性のある活動」を共有すると関係満足度が向上することが示されています[3]

逆に言えば、関係のなかで共有される活動が同じパターンに収束していくと、関係への「気づき」の量が減っていきます。週末の過ごし方、食卓の話題、休みの予定、旅行の行先——それらが「定番」として安定するほど、ふたりにとっての新しさが小さくなり、結果として温度感の変化につながりやすくなります。

原因④ コミュニケーションパターンの固定化——会話の質の変化

「明日、子どもの参観日」「わかった」——連絡事項は毎日交わされているのに、ふたりの内側にあるものを話した記憶が、どのくらい前まで遡らないと出てこないだろう。相手に悪気があるわけじゃない、こちらも忙しいだけ。ただ、会話の水位が静かに下がっていく感覚があります。

4つ目の背景は、ふたりのコミュニケーションパターンが固定化することです。米国の心理学者ジョン・ゴットマン(John M. Gottman)が1999年に米国Crown Publishersから刊行した『The Seven Principles for Making Marriage Work』では、長期的に安定する関係に共通する要素として、日常的な対話の質「4つの毒(批判・侮辱・防衛・無視)」の不在が繰り返し挙げられています[4]

関係の長期化にともなって、会話の内容が「報告と確認」(子どもの予定・家事の分担・仕事の連絡など)に偏っていくと、お互いの内面に触れる対話の機会が減っていきます。また、4つの毒(皮肉まじりの批判・上から目線の侮辱・自己防衛的な反応・沈黙による無視)が日常のやり取りに少しずつ混ざってくると、その積み重ねが関係の温度感を下げる方向に働いていきます。

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原因⑤ ライフステージの変化——外的ストレスの蓄積

子どもの塾の送迎、仕事の締切、実家の親の通院、住宅ローン——手帳を見ればスケジュールで埋まっている一週間。ふたりの時間なんて、探しても見当たらないのが正直なところ、という時期があります。相手のせいでも自分のせいでもなく、ただ人生のフェーズがそうさせている、というだけのこと。

5つ目の背景は、ライフステージの変化に伴う外的ストレスの蓄積です。米国の心理学者ベンジャミン・カーニー(Benjamin R. Karney)とトーマス・ブラッドベリー(Thomas N. Bradbury)が1995年に『Psychological Bulletin』で発表した縦断研究のレビューでは、夫婦関係の質を長期的に左右する要因として、外的ストレッサー(出来事・環境)の蓄積が重要な位置を占めていることが示されています[5]

具体的には、子育て・キャリアの転換・親世代の介護・健康上の変化・経済的な状況の変動——といった、ふたりの関係の外側から訪れる出来事が、関係に振り向けられる時間や心の余裕を圧迫していきます。これらのストレッサーは、ふたりの関係そのものに問題があるからではなく、人生のフェーズに伴って自然と現れるものですが、関係の温度感に影響を与える背景としては、しばしば大きな位置を占めます。

原因⑥ 期待値とのギャップ——「こうあるべき」とのずれ

「もっとこうしてくれると思ってた」「ちゃんと察してくれるはず、と思ってた」——口には出さなくても、胸の奥にこうしたことばがしまわれていることは、少なくないかもしれません。相手を責めているのではなく、ただ自分の中の風景が、思っていたのと違っていた、というだけのこと。

6つ目の背景は、結婚や交際の初期に持っていた期待値と現実のずれです。「夫婦とはこうあるべき」「相手はこのくらい応えてくれるはず」「子育てはこんなふうに分担できるはず」——という期待値は、誰もがある程度持っているものですが、長く一緒に暮らすなかで、その期待値と現実とのあいだに、少しずつずれが積み重なっていきます。

このずれは、相手や自分が悪いから生じるものではなく、事前のイメージのすり合わせには限界があるという構造的なものです。期待値が満たされない経験が積み重なると、相手への「失望感」「あきらめ」が、知らず知らずに関係のなかに沈殿していきます。これは、原因①の情熱的愛の減衰や原因②のヘドニック適応とも、しばしば重なり合います。

原因⑦ 個人の変化——ふたりが同じ速度で変わらないこと

結婚した頃は同じ音楽を聞いて、同じ話題で盛り上がっていた。それが5年経ち、10年経ち、それぞれ別の関心や仕事、友人関係が広がっていく——気づけば「あれ、この人こんなこと考えてたっけ」と、相手が少し遠くに見える瞬間があります。

7つ目の背景は、ふたりがそれぞれ別々の速度で変化していくことです。価値観の変化、関心の対象の変化、人生の優先順位の変化——これらは、それぞれの個人のなかで起きていくもので、ふたりが必ずしも同じタイミングや同じ方向に変わるとはかぎりません。

結婚や交際を始めたときに重なっていた価値観や関心が、5年・10年・20年と経つうちに、それぞれが別の方向へ広がっていく——というのは、決して珍しい現象ではありません。むしろ、個人として成熟するためには、ある程度の変化は自然に起こるものでもあります。問題は、その変化を「お互いに認識し続ける対話」が、関係のなかで保たれているかどうかです。対話が薄まったまま個人の変化が進むと、ある日「以前と同じ相手ではない」という感覚が、お互いのなかに立ち上がってきます。

倦怠期診断の文脈で読み直す7つの原因

本サイトの倦怠期診断は、関係の温度感を4つのタイプの輪郭で描くツールです。7つの原因のうち、ご自身の関係でどれが強く重なっているかを観察すると、4タイプの輪郭にも、その違いが現れてきます。

たとえば、冷却型(タイプA)の温度感では、原因①(情熱の減衰)+原因②(ヘドニック適応)+原因④(コミュニケーション固定化)が重なっている場合が多く観察されます。並走型(タイプC)では、原因④(コミュニケーション固定化)+原因⑤(ライフステージのストレス)が中心になることがあります。再燃可能型(タイプB)では、原因③(共有された新規性の減少)が主軸になり、新規性の取り入れで関係の温度が変わっていく可能性が残されています。

もちろん、これらの対応関係は厳密な一対一ではなく、ご自身の関係を観察するための地図のひとつです。倦怠期の概念整理については、当サイトの倦怠期とは倦怠期のサイン倦怠期からの再構築のコラムでも、別の角度から扱っています。あわせてご参考にしていただけます。

倦怠期の全体像を俯瞰されたい場合は、当サイトの倦怠期のすべて|心理学から読む7視点の総合ガイドもあわせてご参考にしていただけます。原因・サイン・兆候・対処法・乗り越え方・立ち直り方を一望できる入口として、ご活用いただけます。

ふたりの関係に取り入れるなら

7つの原因を、ご自身の関係に取り入れるとき、まずおすすめしたいのは「ひとつの原因に絞らない」ことです。倦怠期は単一の原因ではなく、複数の背景が重なって立ち上がる現象だからこそ、「これが原因だ」と断定することは、現象の一部だけを切り取ってしまうことになります。

そのうえで、ご自身のなかで「7つのうち、いまどれが強く重なっていそうか」を、責めず・急がず・やわらかく観察してみてください。本サイトの20問のセルフチェックは、その「観察の地図」のひとつとして、関係の温度感を4つのタイプの輪郭でやわらかく描き出すツールです。7つの原因の地図と、関係の温度の地図——ふたつの地図を重ねながら、ご自身とふたりの関係を、いつもより少しやわらかく見つめ直していただけたらと思います。

参考文献・出典

  1. Hatfield, E., & Walster, G. W. (1978). A New Look at Love. Reading, MA: Addison-Wesley.
  2. Brickman, P., & Campbell, D. T. (1971). Hedonic relativism and planning the good society. In M. H. Appley (Ed.), Adaptation-Level Theory (pp. 287-302). New York: Academic Press.
  3. Aron, A., Norman, C. C., Aron, E. N., McKenna, C., & Heyman, R. E. (2000). Couples' shared participation in novel and arousing activities and experienced relationship quality. Journal of Personality and Social Psychology, 78(2), 273-284. PubMed
  4. Gottman, J. M. & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. New York: Crown Publishers.
  5. Karney, B. R., & Bradbury, T. N. (1995). The longitudinal course of marital quality and stability: A review of theory, method, and research. Psychological Bulletin, 118(1), 3-34. PubMed

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